言の葉と道具

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【適時開示】【本】ソフトバンクの検討の深さを「形容詞を使わない 大人の文章表現力(石黒圭)」で学ぶ

ビジネス文書で一番使わない品詞は、形容詞(形容動詞)ではないでしょうか。

例えば、少しまえにブログのネタにしようと思っていた、ある適時開示文章を全文引用します。

本日、日本経済新聞にて、当社子会社であるソフトバンク株式会社の上場に関する報道がありましたが、当社は、資本政策に関するさまざまな選択肢を常に検討しております。ソフトバンク株式会社の株式上場もその選択肢の一つですが、正式に進めることを決定した事実はありません。
(2018年1月15日開示 ソフトバンクグループ㈱「当社子会社の上場に関する報道について 」より)

ここで使われている形容詞(形容動詞)は「さまざまな」という言葉、一つだけ。

さて、このような例をあげるまでもなく、「やばい」とか「かわいい」といった形容詞を、ビジネス文書を作成するうえで使うことは、ほぼありません。

でも、使うことがないからこそ、私的な文章、例えばSNSで、
「●●のとんこつラーメン、ヤバイ」などと書いては、後で読み返して「ここの表現のなんと稚拙なことか」と悶えたりする。

そのようなときの処方箋たるものが、表題の「形容詞を使わない 大人の文章表現力(石黒圭)」です。

いわゆる「レトリック」を解説した本といえるのでしょうか。


この本では、形容詞をつかった表現への処方箋といて、3つの切り口を提示しています。

 1.直感的表現から分析的表現へ
 2.主観的表現から客観的表現へ
 3.直接的表現から間接的表現へ

そして、それらは更にそれぞれ3つのアクションに紐づいています。

1.直感的表現から分析的表現へ
・(限定表現)「すごい」といった意味の広い形容詞は、より表現が限定される形容詞や誤解を招かない動詞表現に言い換える
・(オノマトペ)「おいしい」と単にいうのでなく、(陳腐でない)オノマトペを形容詞にかわって使う
・(具体描写)「かわいい」といった便利な形容詞に頼らず、具体的に描写を書き連ねる

2.主観的表現から客観的表現へ
・(数量化)「多い」ではなく、具体的な数量を明示する
・(背景説明)「忙しい」ときは、根拠を添えて説明する
・(感化)「せつない」と気持ちをそのまま書くのでなく、具体的な状況を書き込む

3.直接的表現から間接的表現へ
・(緩和)「嫌い」といってしまうのでなく、ひとひねりする
・(反対)「くだらない」でなく、「あまのじゃく」的発想をしてネガティブな言葉をそのまま使わない
・(比喩)「大きい」とせず、「福岡ドーム○個分」といいかえてみる

という9種類の方法を、例題をもとに説明しています。

「レトリック」という言葉には、つい身構えてしまう私も、気楽に読むことができました。
(ハムスターの挿絵がこの手の本の硬くなりがちな雰囲気を中和してくれているのかもしれません)


さて、この本では、上記適時開示で使われた「さまざまな」についても、触れられています。
少し、本書より引用します。

大学院生時代、大学受験のための小論文指導をアルバイトでしていたことがあるのですが、小論文を添削するときに悩まされたのが「さまざま」「いろいろ」でした。
与えられたテーマについて深く考えていなくても、「さまざまな問題」「いろいろな見方」などと書けば、もっともらしい文章に仕上がります。それで、多くの受験生は満足してしまいがちです。
(同書 106ページから107ページより)


そんなソフトバンクの親子上場。
2月の正式発表時には、「自律的な経営視点と成長戦略を持つことができる」などともっともらしい文言を並べていますが……。

その実、ただの金策だったり、しませんよね。

形容詞を使わない 大人の文章表現力

形容詞を使わない 大人の文章表現力