言の葉と道具

「Chromebook」や巷にあふれる「文章」に関することを書いていきます

【本】「編集手帳」の文章術(文春新書)

遠方の大学入試の合否を、電報で確認することがありました。


合格ならば「クラークほほえむ」
不合格ならば「ポプラ坂 雪深し 再起願う」。


どちらも、読売新聞の1面コラム「編集手帳」の主担当であり、タイトルにある「編集手帳の文章術(文春新書)」の著者、竹内政明氏が受け取った電報です。


後年、竹内氏は、この電報の文章が不合格のそれが合格のものに比べて長いことが、竹内氏の文章書きとしての今のスタンス、つまりは敗者に対して編集手帳の紙面を割くということにつながったのかもしれない、と振り返っていました。


巧みな引用による奥深い文章で、読者と新聞の距離を近づけたとして、2015年に日本記者クラブ賞を受賞した際の講演で語られたエピソードです。

そして、このエントリのタイトルにある「「編集手帳」の文章術」は、表題のとおり、編集手帳をどう筆者が書いているかを述べた2013年発売の本。


文章が上手くなりたいからと、この本を手にとっても即効性は恐らくないと思います。


普通の文章術系の本と違って、竹内氏がコラムをどう書くかというだけでなく、筆を走らせるうえで「何をやらないか」ということにも触れられていて、方法論というよりも読み物的な性格が強いように感じます。


そんな本の中から竹内氏が「やらないこと」をいくつか上げていきましょう。


・文末に「だ」を用いない
 ⇒音読するとブツ、ブツと調べを断ち切るところがある(第1章 私の「文章十戒」)

・第一感に従わない
 ⇒誰にでも思いつくため。そして第一感を惜しげもなく捨てるためには、第二感、第三感の引き出しが必要だという。(同上)

・嫌いな言葉や言い回しは使わない
 ⇒「ちょっとまってほしい」「こだわる」「意気投合」など(第3章『出入り禁止』の言葉たち)


プロのコラム書きのこだわりを感じる一冊。かなり勉強になりました。
でも、ちょっとだけ待ってください。

最後に同書から、少し長めに引用します。

「論調を東に向けたいときは東向きの格言があり、西に向けたいときは西向きの格言があります。ことわざ辞典が手もとに一冊あれば、自分の主張に添ってコラムもどきの一丁上がり、となります。格言やことわざが使われていたら出来の悪いコラムだと見当をつけて、まず外れはありません。(同 )」


いささかの懸念があります。
この本を読むことで逆に文章が書きづらくなるかもしれない、と。


「編集手帳」の文章術 (文春新書)

「編集手帳」の文章術 (文春新書)


(余談)
ここ最近(2017年9月)の編集手帳は別の方が書かれているように思います。気にかかるところ。